梟的解剖論

Orpheus公式では書ききれなかった曲の論評を書き溜めています

506902 ねことコンパス - 雪(三好達治より)

今回はねことコンパスさんの代表作、「雪(三好達治より)」について書きたいと思います

www.orpheus-music.org

作者について

ねことコンパスさんはOrpheusを実験的に使いこなしているユーザーの一人です。

その作曲数はなんと通算1万曲を超えており、公開した作品だけでも121曲と非常に精力的な活動を行なっています。

今回紹介する「506902 雪(三好達治より)」以外にも、「561257 ある一日」、「584688 紫陽花」などと言った秀作を残しており、その内面を映し出したかのような作品は心打たれるものがあるでしょう。

また、「579651 Remix-Lyrics 2」や「578288 ゴジラ対ギュラリ」などと言った実験的な試みを施した秀作も数多くあります。

詩について

 

太郎を 眠らせ

太郎の屋根に雪 降り積む

次郎を 眠らせ

次郎の屋根に雪 降り積む 

三好達治の「測量船」にある有名な詩ですが、皆さんはこの詩からどのような情景が思い浮かばれるでしょうか。

この記事では敢えてこの詩については深く掘り下げないようにしておきますが、予めこの詩単体で光景を思い浮かべてみると良いでしょう。

曲について

上に述べた通り、たったこれだけの詩(歌詞)ですが、その長さは2分3秒とOrpheusの楽曲群の中でも比較的ありがちな長さとなっており、全編に渡って聴きどころが多く見受けられるような深い作品となっています。

また、旋律箇所が伴奏箇所よりも少ない事も特徴の一つです。

第三節以外で旋律が奏でられる事は一切無く、延々と伴奏が流れています。

それでも飽きる事は一切無く、寧ろこれが一つの「味」を出していると言っても過言ではないでしょう。

これは余談ですが、Pink Floydというイギリスのプログレッシブ・バンドの「Echoes」という作品に趣向が少し似ており、改めて今聴いてみると私の中ではそれが想起させられます。

何にしろ、自動作曲で文学作品に深みを与える事に成功したある種のモニュメント的な作品と言えるでしょう。

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特に注目すべき点は第4節→第5節の転調で、これが良い味を出しています。

この転調が何とも言えない複雑な情緒を作り出しており、「単に幻想的な曲」と言ったイメージを瓦解させています。この時点で底の見えない「芸術」のような物も感じられるでしょう。

また、続く第6節の静かな場面も心惹かれるものがあり、緩急と言った面でも非常に模範的です。

Orpheusの楽器は少し音質が悪く、「音が悪いから作品そのものも悪く見える」と言った事例も数多くあり、私もそう言った問題に幾度か悩まされた事があったのですが、この作品においてはそれが丸ごと無かった事のようにされている感じがします。

何にしろ楽器の構成や曲の構成まで、全てが精巧に計算され尽くされた素晴らしい作品な事に間違いはありません。

最後に

曲を聴いた後に、もう一回三好達治のこの詩を見てみましょう。

太郎を 眠らせ

太郎の屋根に雪 降り積む

次郎を 眠らせ

次郎の屋根に雪 降り積む 

如何でしょうか。感じる事は恐らく人それぞれ違うのかと思いますが、単に詩を見ただけの時と比べてみれば大分見方が変わったのではないのでしょうか。

これがこの作品の恐ろしい所でもあります。

「文学作品に深みを与える事に成功した作品」というだけあって、この曲を聴く前と聴いた後とではこの詩に対する感情をも大きく変えてしまう、凄まじい力をこの作品は持っています。

また、ねことコンパスさんは現在も精力的に活動していらっしゃるユーザーですので、この作品に魅入られた方は是非新作などもチェックしてみると良いでしょう。